
こんにちは。二児の父親であり、日々子育てに奮闘している作業療法士のマルと申します。
「親として、子どもにたくさんのことをしてあげたい」「夫婦の仲を円満に保ち、温かい家庭を築きたい」。こうした願いを、多くの方が抱いているのではないでしょうか。
しかし、忙しい日々の中で、その理想通りに行動することは決して簡単なことではありません。私自身も、父親や夫としての役割に加え、職業人としての責任を果たすなかで、さまざまな立場で生活を送っています。
日々のタスクに追われるうちに心身が疲弊し、家族に対して愛情を注ぐ余裕すら失ってしまうこともあります。
家族をはじめとする他者に貢献するためには、まずは自分自身の心と身体が健康であることが大切です。
そこで今回は、生活のマネジメントを専門とする作業療法士という立場から、自分自身の生活を振り返りながら、「生活の質を向上するための視点」について考え、理想の生活に近づくためのきっかけをお伝えできればと思います。
ワークライフバランスという言葉だけでは表せない私たちの生活
内閣府の仕事と生活の調和推進室によると、ワークライフバランスの定義は以下のように示されています。
「国民一人ひとりがやりがいや充実感を感じながら働き、仕事上の責任を果たすとともに、家庭や地域生活などにおいても、子育て期、中高年期といった人生の各段階に応じて多様な生き方が選択・実現できる社会」
https://wwwa.cao.go.jp/wlb/towa/definition.html
具体的には以下のような項目が挙げられています。
- 就労による経済的な自立が可能な社会
- 健康で豊かな生活のための時間が確保されている社会
- 多様な働き方・生き方が選択できる社会
これらの項目は、社会生活を営む上で重要であると同時に、個人の生活の選択肢を広げる社会の実現にもつながると期待しています。ただし、これは社会の在り方や企業としての方針を示すものでもあると読み取れます。
このように変化する社会の中で、より健康で満足度の高い生活を実現するためには、私たち一人ひとりが自身の価値観に基づいて行動を選択し、健康的で持続可能な生活を主体的に築いていくことが重要です。
ここで重要なのは、同じ行動であっても、人によってその意味や、それに必要な時間・頻度が異なるという点です。たとえば「入浴する」という行動一つをとっても、人によってその目的や意義、かける時間はさまざまです。
私にとって「入浴する」という行動には、身体を清潔に保つことや、ひとりで何も考えずにぼんやりと過ごす(リラックスする)といった意味があります。そのため、湯船につかり、一定の時間ゆっくりとお湯に浸かることで、その行動に対する満足感を得ることができます。
一方で、他の方にとっては、「入浴する」ことを単に身体を清潔にする行為と捉えている場合もあるかもしれません。そのような場合には、シャワーで身体を洗うだけでも十分に満足感を得られるでしょう。
ただし、こうした目的や意義は、たとえ身近な家族であっても、他人に理解してもらうのは難しいものです。
本当の意味でライフワークバランスを整えるためには、自分自身の役割や行動の目的・意義を理解し、それを言語化したうえで、周囲の協力を得ながら日常生活の中で行っている行動のバランスを調整していくスキルが求められます。
生活の質を上げる4つのポイント
前述のとおり、自分の生活の質を向上させるためには、自らの生活を構築するためのスキルが求められます。
今回は、自分自身の生活を振り返る際に重要となる4つのポイントをご紹介します。
これらのポイントを理解したうえで生活を見つめ直し、自分の行動を主体的に選択したり、それを他者に伝えて協力を得るためのきっかけとなることを願っています。
「やりたいこと」や「すべきこと」に十分な時間がとれている
人によって、ある行動に必要とする時間は異なります。さらに言えば、その人の技能や価値観によっても必要な時間は変わってきます。
例えば、私自身は料理があまり得意ではありません。そのため、家族の夕飯の支度をしようとすると、料理が得意な人に比べて、どうしても多くの時間がかかってしまいます。また、限られた時間で済ませようとすれば、料理の出来栄えが悪くなったり、「美味しく食べてもらいたい」という希望が叶わず、ストレスを感じたりするかもしれません。
大切なのは、ある行為を行う際に、その人の技能や価値観に応じた時間が、過不足なく確保されていることです。
役割が偏っていない
私たちは、社会生活を営む中でさまざまな役割を担っています。ある特定の役割に限定されることなく、場面に応じて役割を柔軟に切り替えながら生活することが、健康や幸福につながるとされています。
では、皆さんは日常の中でどのような役割を担っているでしょうか。
私の場合、家族との関係においては父親や夫、そして息子としての役割があります。また、社会の中では職業人や職場の同僚、友人としての役割を担っています。そして一個人として、自分自身の価値観に基づいて趣味を楽しんだり、休息も取りたいと考えながら生活をしています。
しかし、子どもが生まれ、子育てが始まった頃は、「父親」としての役割と「職業人」としての役割に限定されたように感じ、心理的に苦しい時期がありました。
そんな中で、「平日は難しくても月に一度は友人と会う予定を立てる」あるいは「たまには夫婦2人でショッピングに出かける」など、自分が他の役割も担っていることを実感できるような予定を意識的に立てることで、気持ちが楽になったことを覚えています。
たとえその行動がすぐに実行できなかったとしても、予定を立てるという行為そのものが、友人としての役割や夫としての役割を意識し、その役割とつながっていることを実感する大切な機会になります。
日々行って行動が、ありたい自分の姿と一致している
このように日々の行動が、ありたい自分と一致していることが、人生を満足いくものや生活のバランスをとれた状態として認識するためには重要です。
私たちの日々の行動は、自身の存在を定義し、どのような人と関わっていくかを形づくる重要な要素と考えられています。
たとえば、家庭で率先して家事を行うことは、「家族を支える父親」や「協力的な夫」といった自分の存在を作り、それを継続することで、その姿は次第に揺るぎないものとなっていきます。その結果、「よき父親」「よき夫」として家庭の中にしっかりと所属することができるのです。
このように、理想とする自分の姿を日々の行動で体現し続けることは決して容易ではありません。しかし、日々の行動こそが私たち自身を形づくっているという事実は変わりません。
つまり、日々の行動が「ありたい自分」と一致していることは、人生に対する満足感や、生活のバランスを感じながら生きる上で非常に重要です。
行った行為が良い結果をもたらしている
ここで重要なのは、日々の行動が自分にどのような結果をもたらしているのかを理解することです。
行動の結果として、以下の3つの条件が満たされている必要があります。
- 心身の健康と安全
- 良好な人間関係
- 個人的なアイデンティティ
これらの条件を満たすことで、人生をよりストレスが少なく、満足度の高い、そして意味のあるものとして認識できるようになると言われています。
たとえば、私自身の失敗談を挙げると、子どもが寝た後の時間を「自分の時間」として捉え、趣味である映画に深夜まで熱中してしまい、結果として睡眠時間が削られてしまうことがありました。この場合、映画を見るという個人的な願望は満たされていますが、心身の健康は損なわれています。
現在は、夜11時までに就寝することを目標にスケジュールを管理し、その中で趣味の時間を確保するよう意識しています。そうすることで、心身の健康を保ちながら、自分の願望=アイデンティティを大切にすることができるようになりました。
また、妻の様子を見ていると、家事の合間にスマートフォンをじっと見ていることがあります。これは一見すると家事を怠っているような行動に見えるかもしれませんが、本人にとっては友人との良好な人間関係を保つ手段であり、同時にアイデンティティを維持するための大切な行為である可能性があります。
このように、3つの条件を満たしながら目標を達成するためには、限られた時間とエネルギーを効率よく使う力が重要だと考えられています。
生活で応用するための手順
自分の行動を見える化する
普段、私たちは毎日たくさんの行動をしています。まずはその一つひとつを書き出してみることをおすすめします。
ステップ1 日ごろ行っている行動を書き出す
以下は私の平日のスケジュールです。

書き出す際のポイントは
- 一日を思い出しながら、できるだけ細かく行動を書き出す。
- 形式にこだわらなくてもOKです。どんな些細なことでも文字にしてみることが重要です。
ステップ2 行動を分類する
次に、行動の「義務」と「願望」のチェックを入れてみましょう。
チェック項目 | 意味 | チェック記号 |
---|
義務かどうか | 「しなければならないか?」 | 〇 or × |
願望かどうか | 「したいと思っているか?」 | 〇 or × |
たとえば、私の行動の一つを例にすると…
「子どもの歯磨きを手伝う」
→ これは しなければならない ので「義務〇」、でも したくはない ので「願望×」となります。
つまりこの行動は「〇×」のパターンです。
ステップ3 結果を数値にする
すべての行動にチェックを入れたら、以下のように分類して、割合を出してみてください。
行動の分類 | 計算方法 |
---|---|
義務+願望の行動 | 〇〇の数 ÷ 全体の行動数 × 100(%) |
義務のみの行動 | 〇×の数 ÷ 全体の行動数 × 100(%) |
願望のみの行動 | ×〇の数 ÷ 全体の行動数 × 100(%) |
義務も願望もない行動 | ××の数 ÷ 全体の行動数 × 100(%) |
健康的に暮らしている人は、
- 「義務+願望の行動」が 約60%
- 残りの40%は「義務のみ」や「願望のみ」に分かれており
- 「義務も願望もない行動(××)」は ほとんどないとされています。
逆に、「無意味」と感じる行動(××)が多いほど、心や体の健康に悪影響を及ぼす可能性があると言われています。
自分の生活を一度言語化してみるだけで、無意識のうちにしている「意味のない行動」に気づくことができます。
そして、それを少しずつ減らしていくことで、より充実した毎日を送ることができるようになります。
自分にとって大切な行動を明確にする
ステップ1 自分にとって大切な行動を書き出す
以下の3つの項目に分けて、それぞれ自分にとって大切な行動を考えてみましょう。
今はできていないけど、本当はしたいと思っている行動でも良いです。
項目 | 自分にとって大切な行動 (実際に行っていること/行いたいこと) |
---|---|
楽しみのための行動 | 例:友人との食事、趣味の読書、旅行など |
社会的・経済的に貢献する活動 | 例:仕事、ボランティア、家族のサポートなど |
自分の生活のための行動 | 例:健康管理、家事、睡眠、食生活の改善など |
ステップ2 その行動が実現できているかを振り返る
上記で挙げた行動について、次の点を考えてみてください。
- やりたいときに、その行動ができているか?
- そのための時間・エネルギーは十分に確保できているか?
自分にとって何が大切かを言語化できているかどうかで、生活のバランスの取り方が変わってきます。
このワークはその第一歩です。無理に完璧を目指さず、「気づき」を大切にして取り組んでみてください。
必要に応じて人に伝える
これまで、行動についてさまざまな視点から考えてきましたが、やはり一つひとつの行動には、その人なりの価値観や意味が込められており、本人にとって非常に重要なことかもしれません。
しかし、それは他者にはなかなか理解しづらいものです。たとえ妻や子どもといった身近な家族であっても同様です。
私たちが自分の生活における行動のバランスを整えるためには、多くの場合、他者の協力や理解が欠かせません。
自分にとって本当に大切だと感じる行動を日常生活に取り入れて、それを満足いくものにするためには、家族をはじめとする他者の協力、外部サービスの活用、便利な道具の利用といった選択肢も検討する必要があります。ただし、家族とともに生活している中では、自分一人の意向だけで物事を決めるのが難しい場合もあるでしょう。
だからこそ、日頃から自分にとって大切な行動を明確にし、それを周囲に伝えることが、円滑な調整のためにも重要だと考えます。
まとめ
自分が普段どのような行動を、どのような意味をもって行っているのかは、意外とわからないものです。仕事や子育てに追われる日々の中で、自分自身がどんな存在なのか見えなくなってしまうこともあるかもしれません。
そんなときには、日々の生活を振り返ることが大切です。ここでは、振り返りのためのポイントと、その応用についてお伝えします。
生活の中で行っている行動のバランスを整えるには、自分のスキルだけでなく、他者からのサポートが必要になることもあります。
自分自身の行動を見つめ直し、より満足度が高く、健康的な生活を送るきっかけになることを願っています。
参考文献
- 山根奈那子,吉川ひろみ.作業バランスを評価する尺度と定義に関する文献レビュー.作業科学研究.2022,16巻,1号,p.41-54.
- 吉川ひろみ.作業療法の話をしよう.医学書院.2019
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